水曜日, 3月 07, 2007
PC98シリーズの父、NECの戸坂馨氏、死去
ドン・エストリッジ氏がIBM PCの父であるとすれば、戸坂馨氏は間違いなく日本のパソコンPC98シリーズの父でありました。その戸坂氏が2月28日にすい臓ガンで亡くなられたという訃報を受け取りました。
戸坂馨氏はACOSの時代からNECのコンピュータ開発に深く関わり、System 100、N5200-05、海外向けAPCからPC-98シリーズのデビュー、NECパソコンのIBM互換機への移行、サーバー群を含む一連のNEC製コンピュータを世の中に送りだした技術畑の総帥でした。まだ、私が駆け出しの営業マンだった頃...PC98シリーズのデビュー前にN5200-05を米国に出荷するというプロジェクトにお付き合いして、ボストンの田舎町グリーンズボロにあったNEC Information Systemに訪問して...私は運転手兼MS-DOSのBIOS仕様を決定する会議の技術通訳/コンサルタントとして同席したのは1982年のこと...それ以来、生粋の技術者としての戸坂氏の生き様に触れることで、私にとって戸坂氏を人生の師として多くのことを教わり、プロフェッショナルとして仕事をするには...というイロハをご指導いただきました。
戸坂氏は田園調布育ちというお坊ちゃまで、東大出身のなのに、「べらんめぇ調の江戸っ子」のごとくであり、まるで”大工の棟梁”のような、職人気質(かたぎ)の親父さんでありました。 信義にたがうことがあったり、ちょっとした仕事のミスや、甘い考えで言い訳などすれば、戸坂さんの「バカヤロウ!!」という言葉が廊下を轟き渡り..その愛のこもった「バカヤロウ」はNECの社員に留まらず、関わりを持った全ての人、マイクロソフトの社員も私も、ホテルで配膳をしているサービスの方にも遠慮なく罵倒が飛ぶことになるのです。20年も30年も前には、カミナリ親父、横丁の親父や電車で説教を垂れるオヤジ、学校の先生を含めてこの手の人は沢山いたのですが...昨今、人から怒られることの少なくなった時代に、さわやかに「バカヤロウ」と愛情を込めて指導され、そして暖かく人を育ててくれるオヤジさんはそうそう見当たりません。そんな中で、戸坂馨氏は、まさしくその生き方を貫いた素敵なオヤジさんでありました。とは言っても、いつも怒っているわけではなく、「きみぃ!!」そう、戸坂さんに自分の存在を認められて、何か褒めて頂くときは戸坂さんは愛嬌を崩して「君ぃ」と優しく声をかけてくれるのであります。そんな関係になれたら..しめたもの....そんな呼吸が掴めるまで、私も最初の数年間はお会いする時はいつも直立不動でありました。
ちょうど20年前に私が結婚した時にも「きみぃ、披露宴はどうしたんだ?」「はあっ、親戚同士の顔合わせで済ませましたが」「そんなことで業界との付き合いが済むと思っているか、きみぃ!!!」「は、はぃっ」「ウチの高山が乾杯をしたいと言うだろうから、オレは万歳をする、その段取りで披露宴をするいいなっ?」というノリで披露宴を業界の人たちを集めてしたのが、もう遠い昔のこと...その披露宴の前日が、実はAXの発表会で高山さんは、娘さんに「お父さんの会社の邪魔をする人の結婚式に何故行くの?」と言われたそうですが...戸坂さんの豪快な万歳が私の披露宴で轟いたのでありました。写真は、2005年6月に私のマイクロソフト卒業式パーティで、ご一緒した時のもの..
戸坂氏の技術そのものに対する造詣の深さはいつも驚くばかりでした、ビルゲイツと話が弾むと時間を忘れて、まるで2人の子供(ビルゲイツと戸坂さん)が玩具の自慢話をしているがごとくの微笑ましい状態がいつまでも続くのでした。そして自社のエンジニアに対する信頼と愛情の深さは素晴らしく、NECの技術者魂としていつまでも歴史に刻まれることになるのでしょう。
晩年は、NECエレクトロニクスの社長に就任され、その上場に立ち会いながらもビジネスとしては冬の時代に遭遇され大変であられたことと思います。昨年に、京都で開催された産学連携のイベントで久しぶりに戸坂さんにお会いして産総研に関わるお仕事をされていらっしゃるとのこと。私も慶應義塾大学で新設大学院の開設に向けて準備中なので、次世代を担う若者の教育と産学連携でご一緒しましょうね、と熱い会話をしたところだったのに...本当に残念です。
日本のパソコンの歴史に偉大な功績を残され、製品のみならず、NECとマイクロソフトの相互信頼関係、パソコン業界の構築、パソコンの文化を築いたことに畏敬の念と感謝の気持ちを心から捧げたいと思います。私自身もプロフェッショナルに仕事をするということの本質を教えて頂きました、本当にありがとうございます。安らかにお眠りください。
合掌...
では、ふるかわでした
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